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戦乱の世の花
□ 第三話 □
此処に来て3日立った。
そういえば学校とかどうなってるんだろう?
もしかして行方不明で探されてたり…?
帰った時怖いかも…いや…帰れないかもしれないけれど。
「なぁにぼさっとしてんだよ!」
「はわぁッ!!」
ドサッ
「も〜と〜ち〜か〜さ〜んッ!」
「おぅ。悪ぃ。」
「痛い…。」
豪快に笑っている元親をやや半目で睨みながらは押された、正確には叩かれた背を摩りながら起き上がった。
前のめりに倒れた為見事に文机に顔をぶつけてしまい鼻や額が赤くなっている。
涙目になりながら摩っていると不意に元親が近寄ってきた。
「う"〜〜…ん?」
「おわ。真っ赤じゃねぇか。悪かったな…痛むか?」
「ッ!へっ平気です。それよりどうしたんですか?」
気配に気づいて彼の方を見れば屈んで此方を覗き込んでいた。
心配そうな彼の視線とま近に迫る綺麗な顔には頬を染めた。
無骨な手が柔らかな彼女の頬を包みもう片方の手で額を摩る。
吐息が掛かる距離で彼は穏やかな笑みを浮かべた。
「約束したろ今日は城下に連れてってやるってな。」
「あっそうでした!元就さんは?」
「あいつは忙しいってよ。」
「そうですか……あの…。」
「あ?」
「顔が…近い…です。」
今だ近い距離にの言葉は小さくなり今では耳まで真っ赤になっている。
あぁ、と彼女の様子に気づいた元親はにやりと笑うと赤くなった鼻の頭をベロリと舐めた。
「ッ!?」
ガンッ!!
「がっ!?!」
「ハハハッなぁにしてんだ。」
「なっ舐めッ!…もっ元親さんの馬鹿ぁ!!」
「っハ。それじゃあ準備したら俺の部屋に来いよ!」
笑いながら部屋を出て行く元親の背を見送りながらはぶつけた背を撫でた。
「う〜〜…なんであの人はあんな…くっ。絶対からかわれてるし…。」
文机にぺたりと額を当てながら小さく呟いた。
「冷たい。……はぁ…。」
元就さんが一緒じゃないって事は…元親さん暴走しそう〜…;
此処の世界の人ってスキンシップ好きなのかな…?
「まっ文句は言えないよね。此処まで良くしてもらってるんだし。」
行き成り現れて未来から来た、なんて言う変な奴を快く迎え入れてくれた。
ましてやこんな豪華な部屋まで用意してくれて。(因みに左隣が元就さんで向かい側が元親さんだ。)
一国の城主とこんなにお近づきになってよいものか…;
は目の前にある小さな鏡で身支度を整えると元親の元へ向かった。
「あぁ。そういやぁ…後で女中の部屋に来るようにだとよ。」
「は?後でって…帰ってからですか?」
「おぅ。」
「なぜ?」
「なんでも着せたいもんがあるってたが。」
「はぁ…なんでしょうかね?」
「さぁな。(大方着物だろうけどよ。)」
城を出て小道を歩きながら元親は隣を歩くを盗み見た。
今現在彼女が着ている服は男性物の着物だ。
薄灰青色着物なのだが慣れない物に大分戸惑っていた様子だった。
そもそも現代で着物を着る等浴衣位だろう。
彼女は袖部分の長さが不満だったらしく結局男性のように肩まで捲くり朱色の紐で襷掛けのように結んでいた。
長めの黒髪は高い位置で紫色の紐で結い上げている。
元々身長が低く華奢なせいもあるが見ようによっては少年にも見えなくはない姿だった。
元親の城に来て数日だったが食事や身支度の世話をする女中達とも大分仲が良くなったようだ。
徐々に城下に入り人が賑わい始めた。
見るものが全てが目新しくは辺りにきょろきょろと忙しなく視線を向ける。
そんな彼女を見て苦笑する。
「。どうだ城下は?」
「はい!すごいです!想像してたのよりすごく賑やかだし…それに皆さん明るいですね。」
「そうだな。」
の視線は市の中を行き交う人々捉えその口元は穏やかに弧を描く。
「戦乱の世なのにこんなにも暖かくて…すごいです。」
彼女の素直な意見に元親はくすぐったそうに目を細め彼女の頭を大きな掌で撫でた。
「やっぱり四国の鬼のおかげですかね。」
「はっ!当然だろうが!」
「ですね!」
暫く歩いて市を開いている各店を見て回る。
見た事のある物もあれば用途が分からない物がありその都度元親に質問していた。
「あっ…これ…」
「あん?どうした?」
「ピアスですかね?」
「ぴあす?あぁ耳飾か。おぃ。この品を見せてくれ。」
「はいはい。いらっしゃいませ〜。」
露店に並んでいたのは細々とした装飾具。
彼女の視線を捉えたのは現代でも見かけるピアスのような物。
店の男性に寄れば南蛮から来た外船の船乗りから買ったものだという。
「(確か昔はピアスって船乗りさんのお守りだったんだっけ?)」
「何かいいのがあるか?」
「え?あ…ただ私の居た所にも同じ物があったんで懐かしいな〜って。」
「ふ〜ん…」
方耳ずつのそれを眺めながら眸を細める。
そんな彼女を見ながら元親は布に置かれたピアスに視線を移した。
「……?元親さん?」
「おぃおやじ。これは金属か?石は?」
「はい。あーこれは銀ですね。稀少なんですよ。石の方は分かりませんがね。」
「そうか…。よしこれをくれ。」
「ありがとうございます〜。」
「???(元親さんってピアス空けてたっけ?)」
小さな紙に包まれたそれを受け取りながら元親を見上げていると不意にその紙を彼女に渡した。
「え?」
「やるよ。」
「えっでも。」
「記念になるだろ?」
「ありがとうございます!」
子供のように無邪気に笑う彼には戸惑うものの彼の心遣いを嬉しく思った。
にっこりと花が綻ぶように微笑む彼女を元親は何処か眩しげに見ていた。
夕日が出る頃、昼過ぎに城下に下りていた二人は帰り道赤に染まる道を歩いていた。
二人の手は何時の間にやら繋がれていた。(途中が人に流されかけた為。)
「あっ。」
「どうした?」
「これ見てみてもいいですか?」
「あぁいいぜ。」
そういえば、と。
思い出したように懐から先ほど元親に買って貰ったピアスの入った袋を取り出す。
シャラン、と。
涼やかな音を立てての掌に落ちてきたのは銀色のピアス。
シンプルな銀の造形に細い銀糸の先には紫色の小粒の石がついている。
柳のように数本付いたそれはどうやら純銀らしく、は驚いたように元親を見た。
「もっ元親さん…これ。高くありませんでした?」
「あ?どうだったかな。」
小首を傾げる彼には苦笑した。
造形全てに銀を使用し付属されている石は小振りながらも濃い紫。
恐らくアメジスト(紫水晶)だろう。
この時代ではピアスを対で付ける事が無い様でやはりこのピアスも一つだけだった。
は徐に自信の付けていたシンプルなボールピアスを外し、元親に貰ったピアスを付けてみた。
引っ掛けタイプだったので誤って落ちないようにと、元々付けていたピアスのキャッチを付けた。
耳元で奏でる金属音にの顔は緩みっぱなしだ。
此方の様子を見ていた元親に視線を移した。
「どう、ですか?」
「あぁ…似合うぜ。」
気恥ずかしいのか少し頬を染めながらも紡がれる言葉にもつられるように頬を染めた。
黒髪にあう涼やかな銀と紫。
は笑うと自分より数段大きく逞しい彼の掌を握りなおし城への道を歩き出した。
「元親さん。」
「あ?」
「…ありがとうございます。」
「おぅ。」
大きな影と小さな影が薄闇が広がり始めた世界に溶け込んだ。
後記
チカちゃんとお出かけ。やはりピアスは銀と紫。
えぇばっちりチカちゃんカラーで(笑)
次は着せかえごっことか?
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