色違いは突然に ドリー夢小説

























が妙なものを見つけた。それがことの始まりだった。


時刻は午後8時過ぎ、やっと人の住む場所へたどり着いた直後。
「ねぇ、見てソル」
「あ?」
街中を歩いていると、何かを見つけたらしいが道端でしゃがみ込み、ソルを手招きしてきた。
なんとなしにそちらへ行ってみれば、そこに無造作に転がっていたのは古そうな手鏡。
鏡の周りに凝った彫刻が施されたそれは、中々上品なデザインであった。
「綺麗だよね。誰かの落し物かな」
相当興味を引かれているのか、鏡を拾い上げてじっとそれを観察し始める。
だがソルは眉を寄せて「やめとけ」と彼女の手から鏡を取り上げた。
「どうせどこかの女が落としたか何かしたんだろ。ここに放っときゃあ持ち主が探しに来る」
「そーゆうモンかなぁ?」
は難色を示したが、ソルは手鏡を元の場所に放った。月明かりが反射され、キラキラと光を撒き散らす。
「行くぞ」
そして名残惜しげな彼女の腕を引いて、さっさと今夜の宿を探そうと歩き始める。
・・・が、ふいに妙な気配を察知して立ち止まった。
「ソル?」
怪訝そうにが声をかける。その背後――ソルが打ち捨てた手鏡から正体不明の法力が迸ったのはほぼ同時だった。
!!」
「わっ!?」
手鏡から強烈な光が発せられる。
咄嗟に彼女を庇い、腕の中で固く抱きしめた。
その結果彼は手鏡からの光の直撃を浴びたのだが・・・幸いなことに、衝撃はなかった。
(・・・・・・何だ?)
妙な気配も消えたことから光の正体を見極めかね、ソルはは無事かどうか視線を下ろした。
「おい、大丈夫か?」
てっきり元気な返事がくるかと思っていたのだが、彼女は何故かピクリとも動かずソルの背後を凝視している。
いぶかしく思って振り返り――そして、ソル自身の思考も凍結した。

手鏡の隣に、1人の男がたたずんでいた。
長い金の髪を無造作にひっつめ、青いライオットの服を身に纏っている。
額には同じく青の鉢金が巻きつけられ、その奥ではやはり驚愕に見開かれた切れ長の青い双眸。
手にした青い剣は、直線的なフォルムが特徴的なブラックテックの産物で――・・・。

「・・・・・・・・・俺・・・か?」
ソルとに凝視されているのは、衣服や身体の配色こそ違えど、間違いなくソルとまったく同じ容姿をしている人物であった。





『この夜が明けるまで』





「問題です」
旧時代のクイズ番組司会者のような口調でが男2人に視線を向けた。
「貴方の名前は?」
「「ソル=バッドガイ」」
「その剣の名前は?」
「「封炎剣」」
「好きなアーティストは・・・?」
「「QUEEN」」
「・・・貴方のライバルは・・・?」
「「そんな奴ァいねぇ・・・どうした?」」
赤と青、2人のソルがまったく同じ表情をして自分をのぞき込んでくる。
その状況に眩暈がして、は彼らから目を逸らした。
「・・・ううん、ちょっと異次元が見えたよーな気がしただけ」
普段聞きなれた声が、同時に他方向から響く――酔いそうな気分だ。

宿のソファに座っているのは、がいつも一緒にいるソルと、彼とまったく同じ外見だが服や身体の色が違う、もう1人のソル。
髪は金色で、瞳は青。
黒いインナーと白いジーンズは変わらないが、鉢金やジャケット、封炎剣のラインなど、普通のソルで赤い色のところが青い。
そして、肌の色もやや白っぽかった。
「えーと・・・何? もしかして、さっきの光で分裂しちゃった・・・って、コト?」
「ヒトをアメーバか何かみてぇに言うな」
青いソルが嫌そうに顔をしかめて言った。
その顔を眺めつつ、赤いソルが口を開く。
「おい、俺」
「あァ?」
「少し耳を貸せ」
2人のソルが顔を寄せ合い、何やらボソボソと話を始めた。
どうやらに聞かせられない内容もあってのことらしいが、非常にシュールな光景である。
(・・・・・・頭がおかしくなりそう・・・)
いわゆる“別カラー”とか“色違い”という、ギルティギアシリーズや格闘ゲームの名物(?)現象であろうか。はたまた、単なるドッペルゲンガーか。
(あ、でもドッペルゲンガーと会ったら死んじゃうんだよね。だったらその可能性はないかー)
終いには妙な理論で納得できる始末である。
この状況はまさしく、“何がなんだかさっぱり”であった。


の頭の周りをクエスチョンマークが羽根をつけてぐるぐる回り始めた頃、ソルどうしの話し合いは終わった。
「――結論から言えば、“分裂”じゃあなく、“複製”だな」
「ふくせい?」
思考の迷宮から抜け出したが首を傾げる。
「遺憾ながら、オレはコイツの“コピー”だってコトだ」
青いソルが肩をすくめ、緩く息を吐き出した。
「“分裂”したんなら、オレ達の質量・・・身長やら体重、何から何まで2等分されているはずだ。だが、この通り元と比較して大差がねぇ。と、いうことはだ・・・」
「あー・・・つまり、“分裂”しちまったんなら身長約90cmの俺が2人できたんだが、そうじゃねぇから違うっつーワケだ」
再びぐるぐると目を回し始めたに、赤いソルがフォローを入れる。
お陰でどうにか混乱せずに済み、彼女は深く息をついた。
「・・・でも、どうして“コピー”なの?」
「色々と話し合った結果、コイツは俺の記憶をそっくりそのまま持っていることがわかった」
「なら、オレはソル=バッドガイという人物の“コピー”だと説明すれば早い」
「ふぅん・・・よくわかんないけど・・・」
まぁ、本人たちがそう言っているのだからそれで良いのだろう。・・・・・・多分。
段々と“ソルが2人いる”という視覚的状況に慣れてきたは、じっと2人を見比べてみた。
確かに同一人物なだけあって見かけも声も瓜ふたつだが、赤い――元々のソルが彼自身を“俺”と呼ぶのに対し、青いソルは“オレ”と別のイントネーションで呼ぶなど、違うところもあるようだ。
・・・それにしても、色彩こそ違えどまったく同じ顔がふたつあるというのは中々不気味な光景である。双子だってここまで似てはいまい。
ゲームで同キャラ戦をやる分には何も感じなかったが、実際にこんな現象が起きてみるとかなり視覚的混乱が生じると、は実感していた。
まぁ、通常どう考えても“ありえない”現象なのだが。
「でもさ、どうしてこんなことになっちゃったの? その鏡が原因?」
青いソルの手にある、問題の手鏡について触れると2人のソルは同時にうなずく。
「十中八九そうだろうな」
「先刻は気付かなかったが、コレには妙な法術がかかっている・・・まぁ、大して強力なモンじゃねぇだろうが」
赤いソルの言葉に肩をすくめ、青いソルがその続きをのたまった。
「人間とは質も威力も違う法力を持ってるオレ・・・いや、コイツが触れた所為で法術が誤作動を起こし・・・結果、こうなったワケだ」
結論を述べた青いソルは、面倒くさそうに足を組む。
・・・と、赤いソルとから視線を浴びていることに気付いて眉根を寄せた。
「・・・ンだ、お前ら」
「なんてゆーか・・・・・・ちょっとややこしいかなって・・・」
「あ?」
「俺らの存在が、だ」
赤いソルがため息をつく。
「口調も見かけもほぼ同じ。ややこしいことこの上ねぇ」
「あー・・・・・・確かにな」

自分たち2人はまだ良い。視界に入る“自分そっくりな人物”は1人しかいないのだから。
耳に入る声も、自分が話した言葉でなければそれはもう1人の自分の声だと区別がつく。
しかし、まるっきり第3者であるにとってはそうではないだろう。その証拠に先程から困ったような表情を浮かべてばかりだ。

彼女を混乱させてしまうことは忍びなく、青いソルもため息をついた。
「しゃあねぇな・・・・・・なら、こうするか」
言うなり、彼は髪を無造作にひっつめている紐を解いた。その結果、長い金髪が肩や背中にかかる。
「これでちったぁマシだろ、元々色が違うんだしな。声の方はどうしようもねぇから勘弁してくれ」
確かに2人の違いがさらに出てきて、より区別がつきやすい。
「うん、ありがとソル・・・・・・あ」
礼を言った途端2人の顔がしかめられ、は口許を押さえた。
「・・・・・・これもややこしいな」
“これ”――彼らの名前のことである。何しろ、このままではに呼ばれる度に2人で振り向くだろうから。
青いソルは再び肩をすくめ、「ならオレが改名するか」と息をついた。
「・・・良いの?」
「まぁな。その方が何かと都合が良いだろ、“ソル=バッドガイ”は元々コイツが名乗ってるモンだしな」
第一、名前なんぞあれば便利な記号みてぇなモンだ。
そうのたまって、青いソルが考えること数秒。
「――じゃ、オレのことは“ロス”と呼べ」
「ロス?」
「・・・・・・我ながら安直だな」
あきれたようにソルがつぶやいた。

ロス。おそらくソルのローマ字表記――SOLを引っくり返せばLOS、“ロス”と読めることから思いついたのだろう。

「まぁ、改めてよろしく頼むぜ、
「うん、こちらこそ」
ほのぼのとした雰囲気でと青いソル改めロスが握手を交わす。
その様子になんとなく面白くない気分になり、ソルは不機嫌に口を開いた。
「テメェ、俺たちについて来る気か?」
「あァ? 当たり前だろうが、オレだってと約束した記憶があるんだぜ」

『お前を守ってやる』――普段約束などしない自分が、彼女に誓った言葉。

「・・・・・・・・・」
ソルの不機嫌度が一気に増した。

と約束したのは自分、そしてその記憶も、彼女と過ごしてきた今までの時間すべても、全部自分と彼女のものだ。
なのに何故、こんな突然現れた存在がそれらを共有していなければならないのか。
いくら自分のコピーとはいえ、正直面白くなかった。
しかしソルのそんな胸中など露ほども知らず、当のはマイペースなもので眠たげに欠伸をこいた。
「スッキリしたら眠くなっちゃった・・・もうご飯食べないで寝ちゃおうかなぁ」
「そうだなぁ、ガキは寝る時間だからな」
ニヤニヤ笑いつつのロスの発言には子どもっぽく唇を尖らせる。
「・・・ロスまでを子ども扱いして・・・」
元はソルなのだから、仕方ないのかもしれないが。
ブツブツと口の中で文句を転がしつつ彼らに背を向けてベッドに行こうとしただったが・・・・・・ハタとあることに気付いて身動きを止めた。
何故か額に冷や汗を浮かべ、その大きく開かれた視線たるやただ事ではない。
「どうした?」
何事かと訊ねてみると、油の切れた機械のごとくぎこちない動きでが振り返った。
「・・・・・・どうしよう・・・」
思いっきり困った声音で彼女は言う。
「ベッド・・・・・・2つしかない」
「「・・・ああ」」
そういえばついいつものクセで2人部屋を取ってしまったと、ソルとロスが同時に手を叩く。
彼らがいるツインルームには、セミダブルのベッドが2つと座り心地が良くないソファが1つ。
既に時刻は深夜を回っており、部屋を変えてもらうには遅すぎる。まだ寒い季節だが誰か1人がソファで寝るしかなさそうだ。
(ここは1番小さいがソファで寝るべきかなぁ・・・)
何にせよ、ソルにもロスにもあのソファは小さすぎるような気がする。何しろ2人が座っただけでみっちり満杯なのだから。
この部屋に余分な毛布などはあるのかとクローゼットへ確認しに行こうとしただが、不意に体が浮いて小さく声を上げた。
後ろから腰に腕を回され、抱き上げられている状態である。
驚いて振り返ると、そこにはニヤついているロスの顔があった。
「な、何・・・?」

「2つしかねぇなら仕方ないよなァ。一緒に寝るか、?」

「・・・はぁ!?」
耳を疑うような発言に瞬時に顔が赤く染まるのがわかった。
「な、何冗談言って・・・!」
「冗談なんざ言わねぇよ。ホラ、暴れるなって」
ジタバタ抵抗するの動きを封じつつ、問答無用でベッドに向かうロス。
――しかし、そうは問屋が卸さない。

「どういうつもりだ、テメェ・・・」
ジャキッ、と赤い封炎剣がロスの喉元に突きつけられ、地獄の番人でも泣いて逃げそうな低い声が轟く。
「どうもこうもねぇ」
刀身を開いた右手で押しのけつつ、ロスが背後を向く。そうすると必然的にの視界にソルの姿が入ってきた。・・・入ってきたのだが。
(うわぁぁぁ・・・・・・怒ってる・・・!?)
青筋を浮かべて仁王立ちしているソルは身体中から不機嫌オーラを撒き散らしていた。
しかし、怒りの矛先を向けられているはずのロスはいけしゃあしゃあと口を開くばかりで。
「オレがそうしてぇからに決まってるだろうが」
の予想の範疇をはるかに飛び越えたことを言ってのける始末。
「テメェ・・・」
「言っとくがなぁ」
口許を挑発的に釣り上げ、ロスはを抱き寄せた。すぐ近くで感じられる彼の鼓動にさらに頬が熱くなる。
「オレは確かにテメェのコピーみてぇな存在だが・・・テメェとはまったく違う面も持っているらしいぜ」
「・・・どういう意味だ」
「そうだなァ」
ニッ、と犬歯がのぞく。
そしてソルとまったく同じ大きさの右手がの頭を固定し――首をかがめたロスの唇が、彼女の頬へ触れた。
「・・・・・・っ!?」
軽く触れられただけだが、彼女の反応は大きい。驚愕に目を見開き、頬を赤くさせるを通り越して放心状態となっている。
それに満足そうに笑い、ロスの青い瞳がソルに向けられた。

「『テメェとは違って我慢はしねぇ』ってコトだ」

呆然とされるがままになっていると、そんな彼女を抱きしめているロス。
――その光景に、ソルの中で何かが切れた。

(・・・・・・ひぃっ!?)
GGXXの対イノやディズィー戦でのデモのごとくソルの足元から炎が吹き上がる様に、は我に返ってダラダラと冷や汗を流した。
だが残念ながら今の彼女に『火事になる』と心配する余裕はない。
金色に染まった、ソルの眼――それが何よりも恐ろしくて。
もしかしなくても“本気モード”で怒っている。ロスの、への行為に対して。
「――表に出ろ」
抑揚のない声でソルが促す。
ロスは再び笑い、を拘束する腕が外れた。
2人ともそれぞれの武器を手に部屋の外へ出て行く。
あっけに取られてそれを眺めていただが、ドアが閉まる前に気がつき慌ててソルたちを追った。
「待って! もしかして、試合始める気!?」
「おう」
「こんな時間にこんな場所で!? 迷惑だよ!」
大体、ソルとロスのような人外の戦闘能力を持つ者同士がぶつかりあえば、甚大な被害が出ることは必至である。
どうにかやめさせようと2人の前に立ちふさがっただったが、
「大して上品な街でもねぇんだ、気にする奴ァいねぇよ」
「第一、街の外でやれば燃そうが何しようが関係ねぇだろ」
「そ、それは・・・っ」
悲しいかな、あくまでやる気――殺る気とも言う――満々の男2人を止める有効な手立てを思いつけず、はウロウロと彼らの周りを回るしかなかった。







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連載主人公ちゃんで…しかも…カラーズです!!
カイ色のソルってのもいいですねぇ
因みに続きますのでvv