破天荒なりし無垢なる女神

破天荒なりし無垢なる女神


Act.4 黒衣の死神は何を想う






























食事の後片付けもそこそこに、と赤屍は街に出ていた。
共に生活するにあたり最低限必要な物を買うことにしたのだ。
赤屍の車に乗せられて二人は某大型デパートにやってきていた。


「はぁ〜…それにしても東京って人多いですね…。」

「東京は始めてですか?」

「修学旅行で来たことがあります。」

「………。」


は赤屍から離れないように歩きながら周囲をきょろきょろと見渡している。
赤屍は暫し考える素振りを見せて歩みを止める。


「…失礼ですがさんは…お幾つですか?」

「え?あっ21ですけど…。」

「…そうですか。もう少し幼いかと思っていました。」

「童顔って良く言われます。」


少し沈んだ顔で俯くに赤屍は慌てて言葉を紡ぐ。


「それも貴女の魅力だと思いますよ。」

「ありがとうございます!」


すぐにの表情はぱっと明るくなった。
いい加減、年齢と童顔については諦めてきているのかもしれない。
赤屍は何時の間に彼女の手を引き歩いている。



















「あの…色々買ってもらってしまって…すみません。」

「気になさらないで下さい。」

「でも…。」

「そうですねぇ。それでは夕御飯はさんの手作りだと嬉しいのですが。」

「はっはぃ!頑張ります!」


二人は買った物を一旦車に置いて、最後に地下の食料品売り場に来ていた。
彼の隣を手を繋いで歩いていたは彼の言葉に夜の献立を考える。


「う〜ん。赤屍さん嫌いな物とかありますか?」

「特にありませんよ。」

「好きな料理のジャンルは…?」

「……和食でしょうか。」

「……かなり庶民的なメニューしかないんですがいいですかね‥?」


自分の料理のレパートリーを考えて少し気落ちしたは恐る恐る彼を見る。
逆に赤屍は至極嬉しそうに微笑んでいる。


「楽しみにしていますね。」

「はい!」


赤屍がカートを引きが籠に物を入れる。
食料品コーナーを長身の見目麗しい男がカートを押していれば自ずと視線を集める。
尚且つ彼と共にいるのは小柄のこれまた可愛らしい少女だ。
下手すれば娘といっても過言ではない身長差。
だが親子というには男の少女を見つめる瞳の温度が違い過ぎる。
可笑しな二人組みは無駄に周囲の視線を集めていた。


『ばっ蛮ちゃんッ!?あああああああアレって…。』

『あん?なっ!?くっクソ屍‥?なにしてんだあの野郎…?』

『もっもしかしてあの娘…赤屍さんの彼女…?』

『にしちゃあ歳が離れてんじゃねぇか?』

『じゃあ見間違いだよ。うん。絶対そうだ!…あっ蛮ちゃんあっちの試食美味しそう!』

『おぅ。そうだな。』


金髪の青年とウニ頭の青年はこそこそと離れて行った。
半ば現実逃避しながら。

彼等や周囲の視線等意に介さずと赤屍は野菜売り場から魚売り場へ向かう。


「…魚…いいのがあれば煮物に…。」


真剣に魚の切り身等を見ているの隣で赤屍は至極楽しそうに笑んでいる。


「………クス。」


こういった暖かな感情。
胸の内より溢れるような甘美なものを感じたのは始めてだった。
さんが、私の為に料理の献立を考える。
それがどこか心地よい。


「赤屍さん。酢の物とか平気ですか?」

「えぇ。」

「ん〜…海草も捨て難い。」

















「味の方はどうですか?」

「えぇ。とても美味しいですよ。これは‥味噌が入っているんですか?」

「はい。私の地元では使うんですよ。」


モノトーンの部屋とは相反してキッチンはとても華やいでいた。
食卓に上るのは野菜の煮物、和え物、青魚の蒸し焼き、海草の酢の物。
ごく一般的な家庭料理の数々だがそのどれもが素朴で温かみのある物だった。


さんは料理がお上手ですね。」

「そうですか…?ありがとうございます。洋食は作るの苦手なんですけどね…。」


苦笑しながらも赤屍の言葉に素直に笑みを浮かべる。


「それでは私の知っているレシピをお教えしましょうか?」

「本当ですか!ぜひお願いします!赤屍さんの料理はすごく綺麗で美味しいです!」

「クス。代わりにさんの料理も教えてくださいね。」

「はい。」

「それにしても…誰かと共に食事を取るのはやはりいいですね。」

「人が多いほうが美味しいですよね。」

「えぇ。それに…私の為に食事を作って下さる方が居るというのもとても心地よいです。」


穏やかに、だがどこか寂しげな笑みを浮かべた赤屍には顔を俯かせる。


さん?」

「私!」

「!」

「私がこれから赤屍さんの為に料理沢山作ります。だからそんな寂しそうな顔‥」

「…ありがとうございます。」


穏やかな夕食も終わり、二人は黒い革張りのソファに寛いでいた。
赤屍の淹れた紅茶を飲みながら隣で医療関係の資料に目を通している赤屍に視線を向ける。


「赤屍さん。お仕事は何時頃から…始めるんですか?」

「運び屋の依頼なら何件か着ていますから。そこから選びましょう。」

「運び屋さんって…つまり依頼された物を運ぶんですよね?」

「そうです。運ぶ過程に妨害が入りますが、ね。」

「はぁ‥。」

「他の運び屋の方にも貴方を紹介した方が良いでしょうから…。仕事の件は此方で選んでも構いませんか?」

「あっはい。お願いします。」


はそっと赤屍に近寄り彼の手元の資料に目を映す。


「解剖資料…ですか?」

「えぇ。少し問題のある患者さんが居ましてね。」

「うわぁ…あっ赤屍さんってお医者さんでしたね。そういえば…。」


医者という単語でふと思い出す。
彼女が此処へ来たさい赤屍が瞬時にとり出したメスのことを。
小首を傾げては赤屍を身上げた。


「あの。赤屍さんってどこからメスを出してるんですか?」

「…?」

「あっこの前急に目の前にメスが出て来たから…。」

「あぁ。そうでしたね。まだ説明していませんでした。」


そう言うと彼は資料をテーブルに置いての目の前に掌からメスを出して見せた。


「わっ!?」


驚いて手に持っていた紅茶を揺らす。
まじまじと鈍く輝く銀色のメスを見ながら、赤屍の手とメスを見比べる。


「今…一体何所から…?」

「このメスは私の体内にあるのですよ。自由に出し入れが出来ます。」

「えぇ!?いっ痛くないんですか?」

「クスクス。痛くありませんよ。ね?」


赤屍はメスを消してに自分の掌を見せる。
彼女の白く小さな掌が赤屍の大きく骨ばった掌を包む。
裏返して見たり指先で触れて見たりしながら彼の手を凝視する。


「傷…痛くないんですか?」

「古傷ですから痛くありませんよ。」


すごいですねーと言いながら赤屍の手に触れているに彼は瞳を細める。


今此処で彼女を押し倒したらどういう反応をするのだろう。と。


さん。」

「はい?っわ!」


とさっと軽い音を立てて二人はソファに横倒れになった。
は目の前の怜悧な美貌に瞬きし驚いたように見つめる。


「あっ赤屍さんどうしたんですか?」


少し頬を染めながらもそれでも心配そうに彼を見上げる。


「どこか痛いんですか?」

「……クク。貴女という人は‥本当に。」

「え?」


ちゅっと軽い音がの額に響いた。
赤屍が薄い唇で軽く額に口付けたのだ。
ゆっくりと身体を離した。


「いえ。なんでもありません。さぁ先にお風呂に入られては?」

「あっはぃ…。」


口付けられたことを改めて自覚したは頬どころか耳まで赤くしてぱたぱたとリビングを出て行った。
赤屍はテーブルに置いていた少し冷えてしまった自分の紅茶を飲み干し口元を緩ませる。


「いけませんね。些細な事で押さえきれないとは。」


じっくりと。ゆっくりと。

甘い毒で侵すように。

無垢な貴女に私を刻み付けましょう。

それまで、まだオアズケですね。



























後記

主人公さんはマトリックスとトシマの面々のせいで。
抱きつきやら軽い接吻程度(口以外)なら過剰なスキンシップと思ってます。
赤面はしてもそこまで深く意識してなさそうですねぇ。




※この作品が気に入って頂けましたら拍手・コメントお願いします↓※