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戦乱の世の花
□ 第十話 □
「Oh!!そういえば…織田の所の明智が脱走したらしいぞ。」
「ほぉ。あの稲葉山城からか……あやつが野放しとは…。」
「でも負傷してんだろ?すぐに討伐されるって。」
「Ah―…あんた本当に楽観主義だな。もしこっちに下ってきたら確実に中国か四国に被害が出るだろう。」
縁側に座ってお茶を飲みながら政宗、元就、元親の三人は話しこんでいた。
宴会から2日後、話が纏まるまで滞在すると文を奥州に出してから政宗は現在岡豊城に滞在している。
彼等が話しているのは織田信長の家臣明智光秀が亡犯したことについてだった。
明智が本能寺の変を起こし捕らえられ稲葉山城の地下牢に幽閉されてから二ヶ月ほどたっていた。
政宗は四国へ向かう途中に各地の話を聞いていたようだ。
元親は政宗の言葉に眉根を寄せて茶を啜る。
「………ちょっと待ってろ。他の奴らにも話してくる。」
「あぁ。……にも話しておいたほうがよいだろう。」
茶を飲み干し元親は自分の家臣達の詰所に向かって歩いて行った。
元就の言葉に片手を振るのは忘れない。
縁側に残された政宗と元就は会話が無いのか黙り込んでいる。
「なぁ。」
不意に政宗が声を掛けた。
ふわりと暖かい風が政宗の色素の薄い髪と元就の鳶色の髪を撫でる。
彼等は戦服ではなく各々の着物を着ている。
「なんだ。」
「あんた……あんたもの事気になってんだろ?」
「………それがどうした。」
「へ〜…冷徹無比な毛利殿も…ねぇ。」
「なにがいいたい。」
ふざけた政宗の言い方に元就は形の良い白眉を歪め冷たい視線を向ける。
「別に……まぁ。Rivalは多い方が燃えるか。」
楽しげに喉を鳴らす政宗を静かに睨みながら元就は立ち上がり私室に向かって行った。
政宗はそんな元就を見送りながら静かに茶で喉を潤した。
「ん〜…‥昔の日本って野草が多いなぁ…。」
は浜の近くの草原で食材になる山菜や野草を摘みに来ていた。
岡豊城からあまり遠くない海岸沿いの草原には何度か女中や元親達と来ていた。
今回は食事の後片付けの後渋る女中を言い含めては一人で訪れていた。
籐の籠を片手に持ち見つけた野草を摘む。
「♪〜--生きていく意味を 失くした時 自分の価値を 忘れた時 ほら 見える 揺れる白い花--〜」
心地の良い暖かな風と陽光。
不意に口ずさむのは自分の好きな歌。
試験の前とか凹んだ時に良く聞いたな。
プレーヤーも携帯も無いから今は聴けないけど。
浮かんでくるのは幼馴染の顔と懐かしい『 現 実 』
「〜--ただひとつ 思い出せる 折れる事なく 揺れる--〜♪‥ん?」
ガサッ
深い色の緑の中から響く音。
風が草を揺らす音とは異質な何かが動いた音には歌うのを止めて其方に視線を向ける。
ガサッ‥ガサ…
「動物…?」
はたまに見かける猫や野良犬かと思った。
だが、草木の揺れの大きさはそれらの動物のものでは無い。
籠を下にそっと置いて様子を伺う。
「ッ!!?」
姿を表したのは一人の男だった。
白銀の長い髪は日の光を受けて透け。
蝋のように白い肌には赤黒い血化粧。
日の光の眩しさに瞳を細め、愕然と見つめるに目を止めると薄い唇が弧を描いた。
「人…」
かっ髪が白いよ?というより銀色…?元親さんより白いや。
…怪我してるのかな…?
は小首を傾げもしかしたら戦で負傷した人なのかと考えたようだ。
「かっ鎌……?」
長い腕が持ち上げた物は鎌。
まるで死神が持つような形をした鎌を両の手に持っている。
この人は どこか 違う 否 オカシイ ?
茂みから姿を表した男の身体は所々傷付いていた。
それ以前に血濡れの身体や防具のせいで傷か返り血か分かり難い。
血に染まった男の身長は遠目から見てもかなり高い。
元親と同じ位かそれより上か、ただ筋骨隆々な元親と違い男の肢体は細身だった。
どこか白蛇のような印象を受ける。
神聖な神の使いの白蛇とは似ても似つかないだろうが。
「……なんで鎌…?」
恐怖も浮かぶもののにはそれ以前に疑問が浮かんだ。
「この世界って何でもありなんだ…。」
鎌が武器って…どこぞのRPGだよ‥。
男は瞳を細めてを見つめる。
ペロリと異様に紅い舌が唇を舐める。
「これはこれは…。」
「あっあの…。」
男はゆっくりと歩み寄ってくる。
はコクリと喉を鳴らし男を見据える。
「…(この人…どこかおかしい?)」
湧きあがる恐怖心には後ずさる。
「どうしました…お嬢さん?」
男の言葉を引き金には脱兎の如く踵を返した。
背の高い草を掻き分けて走る。
背後の男が走って来る気配がある。
「ッ…。」
後ろから聞こえる衣擦れの音、息遣いさえも感じられての肌が粟立つ。
その時。不意にの中に一つの疑問が生まれた。
「(さっきの人怪我…してるよね。)」
怪我して恐らく逃れてきた人。
見捨てていいの…?
本能的な恐怖心と助けなければという良心。
の足が止まった。
「…………!」
喉元に当てられた鋭い刃。
鎌の刃がの白い喉に添えられている。
背後に人の気配と目の端に映るのは長い絹糸の様な白い髪が流れた。
「もう、逃げないのですか?」
丁寧な口調の割りに背筋が凍るような錯覚。
耳の中で自身の心臓の音がやけに耳に付いた。
の背と男の身体が密着している事から男の身体が良く分かった。
荒い動悸。微かに震える鎌。揺れる髪。
深い傷なのかとは震える指を持ち上げる。
「…?」
添えられた鎌の柄に手を当ては振り返った。
男は不思議そうに彼女を見つめている。
鎌と男に挟まれた状態でもの瞳は凛と相手を見据えた。
「怪我…してるんですか?」
「…なんです?」
男はが何を言っているのか分からないようだった。
ざぁっと静かな草原に風が吹き。
の黒い髪と男の白髪が散らされた。
後記
はい!とうとう…明智さん登場〜長くなったので切ります。
しかし…明智さんは赤屍さんと似てる気がする。
物腰は柔らかだけど…血…似合う所とか。
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