The spirit on the lake









The spirit on the lake


























「ねぇアラゴルンってストライダーなんでしょ?」

「……なんだいきなり?」

「色々な所を旅してきたんでしょ?」

「あぁ…。」

「話し聞かせて!!」

「話…か?」

「うん!!」

「……………。」


アラゴルンはの期待の眼差しに思わず後ずさりした。
此処はエルロンド卿の館に設けられた彼の部屋だ。
早朝よりの剣の鍛錬の相手をした後にそのまま彼女が部屋について来たのだった。
ベットに座ったアラゴルンの目の前に立ちはだかりキラキラとした視線を投げかける(汗)
アラゴルンは長い長い溜息を付くとやれやれと彼女を自分の隣に座らせた。


「話って言ってもな…具体的に何の話だ?」

「何でも!!旅の中で起こったこととか…危なかった事とか!」

「ん―‥。起こったと言ってもな…。」

「何かあるでしょ?」

「そういえばドワーフは女にも髭が生えているのを知ってるか?」

「ぇえ!?そうなの!!」

「あぁ。だからドワーフには女は居ないと思われていた。」

「ドワーフってホビットみたいに小さい人達の事だよね?」

「そうだ。彼等は地下を好み、鉱山などを採掘してそれは美しい細飾を施す。」

「へ〜…すごいね‥。」

は闇の森から来たんだったな?」

「うん。レゴラスに見つけてもらったの。」

「闇の森から少し離れた所に大きな湖があるんだが…知っているか?」

「ううん。闇の森から出たことなかったから‥。」

「あそこには語り継がれる伝承がある…聞きたいか?」

「うん!!」


は彼の言葉にあから様に明るく返事をする。
アラゴルンは苦笑すると話し出した。
切なくも美しい湖のお話を…









青々とした木々に囲まれ遮る物も何も無い広い湖面に色とりどりの蝶が舞う。
エルフ達の住まう闇の森から少し離れた小さな森の中にその美しい湖はある。
その湖には昔から水の聖霊が宿っていると噂されていた。
ある時、旅の途中の若い青年がその湖に立ち寄った。


「その若い青年ってもしかしてアラゴルン?」

「残念ながら私ではない。とても昔の話だからな私も子供の頃に聞いた。」

「そっか…続けて続けて!」

「全く…」


苦笑するとアラゴルンは話を続けた。


青年は始め聞き違いか森の木々のざわめきだと思った。
だが、その美しい歌声はとても自然のものではない。
羽織っていたマントから起きだし月明かりに照らされた湖面に目をやった。
青年は息を呑んだ。
黒々とした水面に浮かぶ美しい少女。
年の頃ならば15・6だろう。月明かりにも似た色素の薄い銀髪に水の様に透き通った衣を身体に纏っている。
その肌は陶器の様に白く、伏せられた睫の長さ。


「ねぇねぇ女の子が何で浮くの?」

「お前は‥話の腰を一々折るな;;」

「だってさ〜。」

「いいから聞いてれば分かる。」

「む〜〜。」


青年は少女にそっと近寄り、と言っても彼女が佇むのは丁度湖の中央だが。
そっと彼女に問いかけた。


『君!!』

『!』


その途端今まで響いていた鈴の鳴る様な歌声が止まった。
静寂の中少女はそっと伏せられていた瞳を開ける。
コレで何度目だろう青年が小さく喉を鳴らしたのは。
開けられた少女の瞳は澄んだ蒼。
青年はあまりの美しさに言葉も無くただ彼女に魅入っていた。


『旅の方、起してしまいましたか?』

『いっいや…君は?』

『私は…この湖に住まうものです。』

『湖に?』

『はい…。』


そう言うと少女はゆっくりと青年に向けて歩いてく。
彼女が一歩踏み出すたびに広がる小さな波紋。
丁度青年の目の前に来た所で彼女は立ち止まった。


『君の名は?』

『ウォルカディーテと申します。』

『ウォルカディーテ…』


それから少女と青年が恋に落ちるまでそう時間は掛からなかった。


「ねぇ。でもさ。その女の子は何で湖になんて居たの?」

「次で分かる。」

「??」


すっかり青年はその湖に住み着き、夜後と現れる美しい少女と過ごしていた。
ある時闇の森から偵察に来ていた一人のエルフが湖の側で静かに佇む青年を見つけ近づいていった。
普段、必要に迫らなければ極力エルフは人間に干渉しない。
だが、その湖に関しては別だったのだ。


『其処のお方。その湖は危険ですよ。』

『危険?如何してですか?こんなにも美しいのに…。』

『!…貴方も囚われているのですね…。』

『…?』


エルフは悲しげに青年を見つめため息をついた。
エルフは彼にこの美しい湖の真実を話した。
何故こんなにも美しいのに誰一人この湖に来ず、そして動物達までも現れ無いのか‥


『この湖には聖霊が住んでいます。』

『精霊?』

『いいえ。"聖霊"です。』

『なんのことです?』

『この湖の聖霊は普通の精霊とは違います。人や動物に作用し虜にする。』

『なんだって!!』

『彼女が故意的にしているわけではありませんが…』


エルフに語られた話。
それはまだこの湖に人々が集い動物達が集っていた時の事。
恋人を戦争で無くした年若い少女がこの湖に身投げをしたという。
それだけならば良く聞く話だが、そこから話は変わる。
その湖を統べる精霊が彼女を自身に取り込んだのだ。
只の人間だった少女の魂と精霊の魂。
それらが交わり少女は湖の聖霊となった。
それからだった。真夜中に湖で亡くなった少女見るとの話が広がったのは。
確認しに行った者は帰ってこず、それから湖を訪れるものも居なくなった。
動物達でさえも…。
エルフの話を聞いた青年は信じられないといった顔でその場に崩れ落ちた。


『彼女が…そんな恐ろしいことを…ッッ』

『あぁ。別に魅入られた者達が死んだわけではありませんよ。彼女は悪しき者ではありませんから。』

『ぇ…。』

『彼女に近寄ったのはその見目の美しさに惹かれた者達。彼女が真実を明かした時に拒絶した者達は皆帰っていきました。』

『それじゃあ?…でも…それの何処が恐ろしいんですか?』

『湖で彼女のと過ごす間時の流れが変わります。そのせいで湖から離れると元の姿ではない…老いた姿になる。だから、戻って着た者に気付かなかったのでしょう。』

『…………。』

『もし、守る者があり、彼女を受け入れないのならば今のうちに此処を離れた方がよいでしょう。』


そう言うとエルフは静かに闇の森へ帰って行った。


「なんだか浦島太郎みたい…」

「なんだそれは?」

「あぁ。私の世界の童話だよ。」

「ほぉ…。」

「それでどうなったの?」

「あぁ…。」


多少の話に引かれながらもアラゴルンは続きを話しだす。


青年は決して彼女の容姿に惹かれたのではなかった。
始めは柔らかな彼女の歌声に、そして会話する内に垣間見る彼女の暖かな微笑みに。
そして、彼女自身に惹かれていたのだ。
今宵もまた、月明かりのなかウォルカディーテは彼の前に姿を現した。


『如何したのですか愛しい人…』

『君の事を詳しく聞いたよ…今まで寂しかったのかい?』

『貴方も私を置いて行ってしまうのでしょう?』

『………。』

『私は…貴方を愛しておりました‥』

『ウォルカディーテ!!』


少女はその白い頬に涙を湛えゆっくりと湖の中に消えていく。
心よりも身体が先に反応した。
青年は彼女を追って湖へ飛び込んだ。
湖の中で彼女を捕まえ愛しげに抱き締めた。


『何故…?』

『ウォルカディーテ…行くなら僕も連れて行ってくれ…。』

『そんな…』

『僕は君を愛している。永遠に共に…。』

『あぁ…ッ』


ウォルカディーテと青年の身体を包み込むように柔らかな光が湖に満ちた。
それから心配になったのかあの時のエルフが夜明けと共に湖に着て見ると其処には。
数多くの鳥や動物達が湖に集い見上げていた。


『彼は彼女を本当に愛していたのか…』


エルフは呟くと眩しげに湖の中央に聳え立つ大きな白樹を見上げた。


は話を聞き終わるとほぉと息を吐いた。


「ハッピーエンドなのかな?」

「如何だろうな。私なら樹に等なりたくは無いが…。」

「でもどうして樹になっちゃったの?」

「彼女はその湖の聖霊。彼は人間だ。過ごす時が違いすぎる。」

「そっか‥。それで男の人は彼女を愛してたからずっと一緒に居たかったんだね…。」

「あぁ。彼等の想いが湖を見渡す大樹となった。」

「へぇ…それじゃあ今でも二人は仲良く暮らしてるかもね!その湖に…。」

「そうだといいな。」


にっこりと微笑むの頭を優しく撫でながらアラゴルンも頷く。


「いっか行って見たいなぁ…。」

「行きたいのか?それなら連れて行ってやろう。」

「本当!?」

「あぁ。この戦いが終わったらだが…。」

「うん!約束だよ!」

「勿論だ。」


話も終わり二人は部屋を出て行く。
彼との約束に始終笑みを絶やさないに苦笑しながらもアラゴルンは笑みを浮かべた。


その湖にはジンクスがある。
大切な者と共に其処へ行けばその者達の思いは永遠に続くという……。






















後記

ぼっ冒険話というより伝承になっちゃいました;;;
亮様気に言っていただけますかね‥?
というかこれはアラゴルン夢なんだろうか;;;
キリリク10000Hit記念書かせていただきました!
お気に召して頂けたら幸いです〜。それではありがとうございました!