春雨
春雨






















「ふぁああ…」


長曾我元親と毛利元就に出会い一週間経った。
大分此方の世界に慣れてきたは目を擦りながら起き上がる。
着物の寝巻きの上に元々自分が着ていた黒いパーカーを羽織布団を畳み始める。


「少し肌寒いかも…今日は曇りかな?」


腕にはめていた時計を確認するとまだ午前4時過ぎ。
改めて時計を確認し早過ぎたと、畳みかけの布団の上で溜息をついた。
ぶるりと身震いし少し襖を開ける。


「……雨…か。」


畳みかけの布団をそのままには部屋を静かに抜け出した。
両隣にまだ寝ているであろう元親と元就を気にしつつ廊下を静かに進む。
が向かったのはすぐ近くにある美しく手入れされた庭。
普段は縁側に座り談笑したり日光浴をしたりするのだが。


「静か〜…。」


サァーと静かに降る雨。
雨音さえも柔らかくは縁側に腰掛けた。


「お昼には晴れそうだなぁ…。」


鼠色の雲は途切れ所々明るい日の光が覗いている。
微かな光に霞む雨が余りにも幻想的では瞳を細めた。

その時。


「ぇ…?」


広い庭園の中央。
整った池の近くにぼんやりと雨霞の中誰かが立っているのが見える。


「人…?」


彼女の呟きが聞こえたのかその人物は此方にゆっくりと歩いてくる。


「……もっ元就さん!!」

…か。」


は慌てて立ち上がり彼に自身の着ているパーカーを掛けようとする。
元就はそんなの手を制し彼女の瞳を見据える。
ちょうど縁側に立って元就と同じ位の目線になっているは彼の瞳を見つめ返し小首を傾げた。


「元就さん?」

「………日輪が見えぬ。」

「は?」


彼の少し色素の薄い髪が雨で湿り白い肌に張り付いている。
寝巻きのままの彼を心配そうに眺めていたは彼の一言に間の抜けた声を出した。


「えっと…日輪…ですか?(日輪って太陽のことだよね…?)」

「……………。」


無言での隣に腰掛けた元就を気にしつつ彼女は疑問顔だ。


「きっと昼には晴れますよ。……日輪も見えると思います。」

「そうか…。」

「でもどうしたんですかこんな早くに?」

は…どうしたのだ?」


質問を質問で返され一瞬口篭るものの自分が起きた経緯を話した。


「そうか…。」

「元就さんは?日輪が気になったんですか?」

「あぁ。………。」

「はぃ?」

「我は…我は兵等所詮捨て駒だと考えていた。」

「……。」


虚ろな表情で俯きながら紡がれる言葉をは静かに聞いていた。


「馴れ合う等無意味なことだ、と。だが、元親は違う。」


周囲の音は静かな雨音に掻き消され元就の声だけが響く。


「あやつは兵を守り民を守り…アニキ等と慕われておる。我には分からない。」

「元就さん…。」

「………………。」


そのまま黙ってしまった元就には困惑顔だ。
一呼吸して話しかけてみる。


「元就さんは元親さんが嫌いですか?」

「………分からぬ。」

「元親さんはきっと元就さんが危ない時助けに来てくれますよ。」

「何故だ…?」

「元就さんが仲間だからです。」

「仲間…。」

「元就さんは変わる事が恐いんだと思います。今まで兵を省みなかったけれど、元親さんのお陰で変わろうとしているから。」

「我は…。」

「変わる事は悪い事ばかりじゃありません。むしろいい事の方が多いかもしれません。」

「だが…我は…。」

「慣れないかもしれませんが、初めは小さな事からでもいいんです。」


は彼の冷えてしまった両手を握り穏やかに話し続ける。
徐々に元就の瞳に光が戻り始めさ迷っていた視線がの瞳に合わさる。


「戦で危機を脱するのは元就さんの策かもしれない。でも、その策を遂行する人達がいるからこそ成功するんです。」

「……………。」

「人は一人では絶対に生きてはいけないんですよ?」

…。」

「少しずつ変わっていければいいですね。」


にっこりと微笑むに元就は瞳を一瞬見開き静かにふせた。


「あっ。偉そうにすいません…。」


笑ったかと思えばしゅんとしょげてしまう彼女に元就も微かに微笑んだ。
普段元親がしているように彼女の頭に恐る恐る触れ撫でる。
は彼の行動にまたあの日輪のような輝く笑みを見せた。


。ありがとう。」

「ッ!?」


始めて見た。
彼の柔らかな笑みには言葉も無い。


「む。服が濡れていたな…そろそろ他の者も起きてくるだろう。…?」

「あっはっはぃ!」

「まだ部屋に居たほうがいい。少し冷えるからな。」

「そっそうですね。」


立ち上がった元就は彼女の手を掴みゆっくりと部屋へ歩き出す。

























朝方の雨が嘘のように快晴の中。
元親達と食事を済ませそのまま今朝訪れていた縁側に3人で座っていた。


「朝方雨が降ってたみてぇだな。」

「あっ降ってましたよ〜。春雨ですごい綺麗でした。」

「珍しいなお前がそんなに早くに起きてたなんてよぉ。」

「ちょっと目が覚めちゃって。」


お茶を飲みながら話す二人をよそに元就の元へ彼の家臣の一人が駆けて来た。
伝達事項を伝え去ろうとした相手に対し元就が口を開く。
と元親はそっとそんなやり取りを見ていた。


「待て。」

「はっ!」

「…………………。」

「もっ元就様?」

「…。何時もすまぬな。」

「!?…いっいいいえ滅相もありません!この命元就様の為に!」

「あぁ。」


小さな感謝の言葉と微かな微笑みに家臣の一人は飛び上がるほどの驚きを見せ、大きな声で返事をした。
そんな相手に元就も驚いたようだがふと穏やかな笑みを見せた。
興奮冷めやらぬ様子で駆けて行く家臣を見ながらと元親は顔を見合わせる。


「…笑ったな。」

「笑いましたね。」

「……珍しい事もあるもんだ。」

「きっと元親さんのせいですよ。」

「あぁ?なんで俺なんだ?」

「フフフ。」


それから度々兵を労う元就の姿が見られ兵達の士気が異常に高まったのは言うまでも無い。










春雨……静かに降る雨。春の雨。






後記

元就さん夢は少し難しかったですね。
2のストーリーがどシリアスだったので…でもどこか最後が切なかったんですよね。
うちの元就さんはこういう感じでチカちゃんとか主人公さんからいい影響を受けていければと思います。




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