ずっと






ずっと



















彼女がこの闇の森に来て、三日になる。
素直で賢いこの人間の少女は見る見るうちにこの中つ国の事を理解していった。
中つ国の歴史。
言語。
言葉といえば彼女は決してこの世界の言葉を話しているつもりは無いと言う。
普通に話しているのがわたし達の標準語になっているようだ。
ただしエルフ語は分らないらしい。
今、彼女はエルフ後の勉強の真っ最中。


「レゴラス〜?」

「ん?何だい?何処か分らなかった?」

「あのね。この部分なんだけど…。」


は眉根を寄せてわたしに本の一文を指し示す。


「此処は‥友と訳すんだよ。発音は‥メルロン。やってごらん。」

「めるろん?」

「違う違う‥。もう少しアクセントをつけて?」

「メルロン?」

「うん。そんな感じだよ。」


彼女は話せたことが嬉しかったのか何度かその言葉を口ずさむ。
そして此方を向くとにっこりと花が咲いたような笑みを浮かべた。


「ありがとう!」

「どういたしまして。」


暫し本に集中していたが不意に顔を上げわたしを見つめてきた。
何だろう?


「あのね…レゴラスは王子様でしょ?何時も私に構ってくれるけど‥いいのかなって。」


そんな事を心配していたのかい?
君は何て可愛らしいんだろう。
此れが人間というものなのだろうか?そういえばエステルも昔は可愛らしかったなぁ…。
今ではあんなになってしまったけど‥。


「気にしないで。わたしがを構いたくてやっているんだし。それともは私に構われるのは嫌?」

「そっそんなことないよ;;むしろ嬉しいくらいだし…。」

「父上に許可を貰っているからね。安心した?」

「うん…色々ありがと。」

「いいえ。その代わりと言っては何だけどのいた世界についても聞きたいな。」

「私の世界?」

「そう。此処とはだいぶん違うようだね。」

「う〜ん…。私の住んでた所はあんまり緑がなかったかなぁ…。空もビルって言う大きい建物で見えにくかったし‥。」

「そうなんだ…。は…此処と元の世界どっちが好き?」

「ぇ…。」


わたしの質問には戸惑ったような声を出す。
少し意地悪な質問だったかな。


「…私は此処の方がいいな。」

「!……元の世界に帰りたくないの?」

「帰れることなら帰りたいよ。家族もいるし‥でもこの世界はとても好き。緑も多いし、色んな種族が居るし。」

「そう…。」

「それにレゴラスやスランドゥイル様もいるから!」


何て無垢な笑みを浮かべるのだろう。
は気付いているのだろうか?
この闇の森のエルフ達が君の事をとても好いていることを。
当然わたしも。父上も。
彼女は人間だけれど何処か不思議だ。
やはり異世界から来たから?


「そういえばさ。レゴラスって何歳なの?」

「え?」

「ほら。エルフって不老不死なんでしょ?」

「ん―…。何歳に見える?」

「ぇ…人間で言うと‥20代前半くらいかなぁ‥」

「そんなに若く見えるんだ。」

「…で?実際は何歳なの?」

「確か…2931歳だったかなぁ…。」

「にっ二千!!?(エルフって;;)」

「これでもエルフでは若い方だよ?」

「そうなんだ…;;」

は何歳?」

「私?え〜っと…19だよ。」

「19か…私にしてみたら赤子同然だね。」

「む〜…でもそうだよね。エルフと人は時の流れが違うから…。」

「…………………。」


何時か君はわたしを置いて帰ってしまうかもしれない。
もし此処に残ったとしても。
わたしはエルフで‥彼女は人間。


「レゴラス?」

「…あぁ。ごめん。何だい?」

「レゴラスには短いかもだけど。よろしくね?」

「ッ!」

「れっレゴラス??」


彼女の言葉に思わず抱き締めてしまった。
言葉の意図している事に…。


「短い間だけど…異世界から来た変な奴の事忘れないでね?」

「忘れるものか‥絶対に‥。」

「あはは〜ありがとう。」


抱き締めて気付いた。
余りにも華奢で壊れそうで。
サラサラと風に流れる黒髪と彼女の体温が余りにも胸を締め付ける。


「レゴラス??あの〜そろそろ離して欲しいんですが////」

「……………。」


は少し体をずらすとわたしを見上げてきた。
黒い黒曜石のような瞳で。


「レゴラス…。どうして泣きそうな顔なの?」

「…君が哀しい事を言うからだよ。」

「えっ!?わっ私そんな事言ったっけ?」

「君が居なくなったら悲しみに飲み込まれて死んでしまうエルフも居る。」

「そんな…。」

「本当だよ?…現に今だって。」

「うん…。ごめんなさい。変な事言って。」


は腕を伸ばしわたしの胸に顔を埋めた。





暫く彼女を抱き締めていた。
ふと思い出したように空を見上げると日が傾き始めている。
時が経つのも忘れていたのだろうか。


「‥?」

「‥ん……むぅ…」

「眠っているの?」


はわたしの腰に手を巻きつけたまますやすやと寝息を立てている。


「全くこのお姫様は…。」


そっと彼女の眠りを邪魔せぬように抱き上げる。
今だ起きる気配のない彼女を抱えわたしは館へと歩き出す。


「二度と‥あんな哀しい事を言わないでくれよ。…。」


どうしたことだろう。
わたしは…
この幼い人間の少女に…。


「絶対にわたしが守るから‥。何処にも行かないで。」



レゴラスの声だけが風とともに残り、辺りに木霊した。




































後記

決してレゴラス限定設定じゃないんですがね;;
後々ボロミアとかアラゴルンとかハルディアとかファラミアとかエオメルも絡んでくるかと;
最後は誰がさんの隣にいるんでしょうかね?
闇の森での一コマでした。




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