死神奇談
死神奇談
〜 N I G H T M A R E 〜
怖い。怖い。怖い。
早く。早く。早く。
逃げないと。
捕まってしまう。
「はぁ…はぁ…っ…。」
どうしてこんな事に。
私が一体何をしたって言うの。
は荒い息を必死に押さえ狭い路地の壁にもたれかかった。
傷ついた裸足の足の痛みに眉根を寄せ。
込み上げる涙をボロボロと零した。
その日も何時も通りの日常だった。
早くに起きた母親が買い物に出るのを見送り、のろのろと朝食兼昼食の準備をして。
昼のニュースを見た後にぼんやりと読書をする。
時計の針が三時を示した頃母親が帰ってきた。
ガチャリと玄関を開ける音と何時も通りの足音。
居間のドアを開けてソファに座っていたに声を掛ける。
「ただいま。」
お帰りなさい。
と、顔も上げずに答える。
ドチャ。
大きな水の塊を落とした様な妙な音がした。
は本から顔を上げる。
座った彼女の目線に母親の顔の半分と目が合った。
ずるずると目の前で母親の身体が徐々に崩れて行く。
ビチャっと頬に生温い血が飛んできた。
彼女は頬に付いた血液に触れ、はっと目の前の"母親だった物"を確認した。
その時彼女の視界の隅の黒がゆらりと動いた。
ゆるゆると顔を上げるとビスクドールの様な人形めいた顔の長身の男が血濡れで立っていた。
彼の闇色の瞳が帽子の深い切れ目から見える。
薄い紅の唇がゆっくりと弧を描く。
「お迎えに上がりましたよ。さん。」
甘いテノールがやけに耳に付いた。
男の血に濡れた白い外科用手袋をはめた手が優美に差し出される。
は男の声にビクリと身体を震わせ居間の隣のキッチンへ背後の扉に駆け出した。
キッチンにある勝手口から靴も履かずに死に物狂いで飛び出す。
どうして。どうして。
あの男は誰?なんで…。
「なんでっ…そうだ。警察!警察に行かなきゃ!」
座りこんでボロボロと泣いていたははたっと顔を上げた。
その時。コツコツと密やかな靴音が暗い路地の奥から響いた。
彼女は後ろも振り返らず立ち上がると走り出す。
背後でクスリと笑い声が聞こえた気がした。
ドンッ!
「!?」
視界が闇に染まる。
「……鬼ごっこは終わりです。」
微かに香る香水とそれに混じる鉄臭さには必死に逃げようともがく。
だが男のしなやかな腕が彼女の躯に絡み付きびくともしない。
男は長身を屈めて彼女の耳元で囁いた。
「 つ か ま え た 」
「ん……。」
はゆっくりと起き上がり瞳を擦る。
左右を見渡し自分の部屋だと確認すると何故だが身体の力が抜けた。
何かとても怖い夢を見ていたきがする。
とても怖くて。
「……怖い…夢。」
夢の内容は良く覚えていないけど。
鮮烈に思い出すのは"黒"と"赤"。
カチャリ。
微かな音が響きベットの向かい側にある部屋の扉がゆっくりと開いた。
はピクリと身体を反応させる。
少し開いた隙間から流れ込む鉄臭さに嫌な夢を思い出す。
「………母さん?」
大丈夫。
さっきのは夢だったんだ。
何時も通り母さんが起こしに来ただけ。
そう。
何時も通り。
「おはようございます。さん。」
扉が開き。
聴こえたのは甘いテノール。
「お迎えに上がりました。」
其処に居たのは……。
後記
今回は赤屍さんのダークサイド…甘怖って感じで描いて見ました。
赤屍さんなら甘々だけじゃなくてこういう狂愛って感じもいいかなぁと。
しかしこれって夢と言うんでしょうか;
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